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ワイヤー放電加工機

お待たせしました。連載、お宝紹介も第4弾になります。難しい最先端の機械の紹介を―どなたにでもわかりやすく―をモットーにしています。今回紹介するのはワイヤー放電加工機です。

ワイヤー放電加工機、名前からはあまりよくイメージがわかないのですが、何をする機械なんでしょう?


ワイヤー放電加工機
(株)ソディック PREMIUM AQ327L
簡単にいうと、糸のこで木を切るようにワイヤーと加工物である金属との間で放電させ、そのエネルギーで加工物を溶かして加工していきます。



デモンストレーションも交え,丁寧にお答え頂いた株式会社ソディックの山口さん(左)と村中さん。村中さんは本学機械工学科の卒業生です。

ワイヤーが糸のこの刃のように金属を切るというわけではないのですか?

ワイヤー自体が金属を切るのではなく、放電でできたエネルギーで溶かしながら切るのです。雷が発生する時と同じですね。そのときのエネルギーによってかなり高温になるので金属を溶かすことができるのです。ワイヤーを使うのでその切り方がちょうど糸のこを使ったような切り方になるのです。

なんだかよくわからなくなってきました。そもそも放電加工というのはどういう加工のことをいうのですか?

放電加工では、絶縁性の液体の中に電極と被加工物を入れ、高電圧をかけながら2つのものを近づけていきます。その距離がある距離まで近づくとスパーク放電が起こり、そのエネルギーで高温をつくり金属を溶かす仕組みになっています。この機械では、台の上に加工物を乗せ、ワイヤーと台の両方に電気を通じながらワイヤーを加工物に近づけます。するとワイヤーと加工物の間で放電が発生します。そのため台から電気が伝わってくるような伝導性のものしか加工できないという制限もあります。

溶かして切るといわれましたが、固い金属が溶けるのですからかなりの高温になるのですね。

はい、加工表面は3000℃ぐらいになります。それを周りの液体が冷やし固めます。刃物を使わないので材料との組み合わせや、消耗のことを考えなくてもいいのです。また、刃物が使えないような固い材料が加工できます。ダイヤモンドの加工もできますよ。

刃物を使わないで溶かしながら切るということではほかにはレーザー加工機がありますが、仕上がりは違いますか?

どちらも刃物を使わない非接触加工なので、精度が出しやすいです。ワイヤー加工はレーザー加工に比べて時間はかかりますが、さらに精度のよいものができます。いくら精度がよいといっても、物によってはこの機械だけで最初からすべて加工すると時間がかかりすぎてしまうこともあります。だから、一つのものを加工するときに機械の一番いいところを利用し、どういう風に作ったらいいのか、加工の仕方、作り方を創意工夫する必要があるのです。そこが私たち人間の頭で考えるところなのです。

なるほど。いろんな角度からも考えてみることですね。それは創成CIRCLEの理念と同じですね。ところでワイヤーにはどんなものを使っているのですか?


こんな加工が簡単にできます。
材質は真ちゅうで銅と亜鉛の合金です。水で加工するときは、太さは0.2oほどです。タングステンを使う場合もあります。タングステンの場合は20ミクロンほどで髪の毛よりも細いです。水より絶縁性の高い油を使ってエネルギーが散らないようにし、より細かい精度が必要なときに使います。

ワイヤーはどのくらい使えるのですか?

一度通電したらもう使えず使い切りなので、新しいワイヤーをどんどん送り込みながら加工するのです。ワイヤーは1分間に12mぐらいのスピードで送られますが、加工条件が厳しくなるとワイヤーの速度も速くなります。

加工するもの形は柱のように上から下まで同じ形にしかできませんか?

上下のワイヤーをつかんでいる部分、ガイドといいますが、この部分を上下別々に動かすことができるので漏斗(じょうご)のような形もできます。また、片方だけ別の形、たとえば上が星形、下は円にすることもできますよ。

CNCというのは何のことですか?

上下の大きさが異なるのが分かりますか?

数値制御製作型加工機(Computerized Numerical Control)のことで、数値データーで位置決めをして、ボールネジというネジの回転数で距離を測っているのです。たとえばネジが1回転したら何ミリ進む、何度回転したので何ミリ進むということが数値で出てきます。この精度はどんどんよくなっており、たとえば工場内の温度が上がっても加工精度に影響が出ないように機械自体を補正できるようになっています。

へぇ〜いろいろと複雑な加工もできそうですね。私たちが目にするところではどのようなところで使われたり、製品としてどんなものがありますか?

複雑な形状の勘合(はめ合わせ)

金型をつくるときに使われることが多いですね。金型というとあまり表には出てきませんが、私たちの身の回りにあるプラスチック製品を作るには必ず金型が必要ですし、それも精度のよい金型を必要とすることが多いのです。また時計の中で使われている精密ギアのような精密機械部品を加工するときにも使われます。このような小さな部品では刃物は入りませんし、その上精度がとても必要になるのです。刃物が入らないような細かい加工や、刃物では削れないような固い金属の加工には特に向いていますね。

そんなに高い精度が必要だなんて想像を絶する世界ですね。この機械がほかのワイヤー加工機に比べて優れているところはどこですか?

位置決めにリニアモーターを使っているので従来のボールネジに比べ、接触による摩耗がなく長期的に精度が変わらないところですね。

 

ナイフのような刃で削るのでもなく、レーザーのように光線が出るのでもなく、また、ワイヤー自身で切るのでもないという加工がどういうものなのか、なかなか理解できませんでした。電気エネルギーから熱エネルギーを生み出す放電という現象をうまく利用しているんだなと感心しました。ワイヤーを送り出してくるところを実演していただきましたが、ミシンのボビンの拡大版にワイヤーが巻かれていて、自動糸通しそのままのようなものでした。エッシャーのトカゲの絵をモデルにしたパズルはとても精度がよく、ピースとピースの間にすきまがあるのかなと思いたくなるようなものでした。ミクロの精度が必要な世界、ただただ感心するばかりでした。