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コミュニケーションを考える

地域連携部門は科学技術コミュニケーションを担います

 この度、センターの新部門として「地域連携部門」が加わりました。地域連携部門の重要な役割の一つは「地域との科学技術コミュニケーション」です。平成7年の科学技術基本法の制定以来、大学にも科学技術理解増進活動への貢献が求められるようになり、科学技術コミュニケーションという言葉も良く耳にするようになりました。
 でも、「コミュニケーション」という言葉、分かったようで分からない言葉の一つですよね。そこで、今回のエッセイではコミュニケーションとは何か、を考えてみることにしましょう。

適切な訳語がない「コミュニケーション」

 英和辞典には、伝えること、伝達、連絡、報道、情報、通知などいろいろな訳語が掲載されていますが、どれもしっくりきませんよね。そもそも私たちは、特定の言語体系の中でしか思考できないのであって、「ことば」がないということは、その言語体系にはそのような「概念」がないということです。日本語ではあたりまえの言葉が英語にならないということも良くありますよね。(近年、Mottainaiが国際的に市民権を得つつありますね。)外国語で議論するとき、外人に勝てないのは、単に言葉の不自由さばかりではなく、彼らの思考の枠組みの中でしか表現できないためでもあります。
 分かったようで分からないコミュニケーション。そもそも日本にはそんな概念は無かったということから議論を始めた方が良さそうです。

コミュニケーションとハラスメント

 現代社会での人間関係において、最も気を付けなければならないことの一つは、コミュニケーションとハラスメントの違いをちゃんとわきまえることでしょう。これを間違えると職を失いかねませんからね。
 良く問題になるセクハラの場合、私たちには特定の個人を愛する権利はあるが、愛される権利はないことを素直に認めなければなりません。コレを間違えるとエライことになります。
 コミュニケーションの基本は、「相手のことを理解しようとする」ことです。それに対し、「相手を理解しようとせず、一方的にジブンを理解させようとする行為」がハラスメントです。ですから、同じ言葉でもあなたの気持ちの方向次第でコミュニケーションにもハラスメントにもなり得ます。人間は、生まれてからずっと微妙なニュアンスから「そのことを言うことによって何を伝えようとするのか」というメタ・メッセージを読み解く技法を鍛え続けているのです。相手本意の言葉と自分本位の言葉。人間は、この違いを理屈抜きで見抜いてしまいます。

恋人たちのたわいない会話がコミュニケーションの基本

 恋人たちの会話って、文章に書き取るとほとんど意味をなさないですよね。でも、あのとりとめもなく続く言葉の連鎖は「あなたをもっと理解したい。」「あなたの声をもっと聞きたい。」という気持ちの表れですよね。そう、コミュニケーションとは、もっと知りたいという欲望の継続的プロセスのことです。そして、その問いかけが双方からなされないとコミュニケーションは成立しません。
 コミュニケーションの基本が問いかけであることは、人がどのようにしてコミュニケーションを断ち切るかということを考えればスグに分かります。親や身近な人にガミガミ言われたとき、みなさんはどうやってその会話を断ち切りますか?最も多いパターンは「分かった、分かった。」ではないでしょうか。(なぜか2回繰り返す。しつこく、「もう分かった」と3度目を繰り出すこともあります。)そんな、イヤな場面でなくても、「分かりました」という言葉で終える電話の会話も多いのではないでしょうか。もう問いかける必要はない。(あるいは、もう問いかけたくない。)これがコミュニケーションの終焉です。
 チョット考えてみれば、おしゃべりな人がコミュニケーションに長けているワケではないことに気づきますよね。なんとなく話したい気持ちにさせる人。そんな人がコミュニケーションのうまい人って言えるのではないでしょうか。NHKドラマ「フルスイング」の中のセリフ、「大きな耳、小さな口、優しい目」がコミュニケーションの基本です。(聞く耳を持たず、一方的に話しまくり、厳しく追及する人とはお友達になりたくないですもんね。)

科学技術コミュニケーションの役割

 このようにコミュニケーションのコトを考えてみると、科学技術コミュニケーションって、最近は使われなくなってきた「啓蒙」とは対極にある行為だということが分かりますよね。一方通行の情報伝達はコミュニケーションではありません。(下手をするとハラスメントかも。)科学技術コミュニケーションは、科学者・技術者と市民がともに問いかけ、そして、ともに変わっていくプロセスです。現在では、「公衆の科学理解(Public Understanding of Science)」と同様に「科学者の公衆理解(Scientists'Understanding of Public)」が重要であると言われています。

科学技術を楽しもう

 科学技術も音楽や芸術と同じように人類が産み出した営みです。Artという言葉には、本来、「技術」と「芸術」の2つの意味があったそうです。ひらめきと具体化。意外とこれらを産み出す頭の使い方は似ているのかもしれません。
 作曲や演奏技術を身につけるのは難しくても、音楽は誰でも楽しめます。絵画制作技術はなくても美術鑑賞はできます。科学技術コミュニケーションを通じて、市民が音楽や芸術を楽しむように科学技術を楽しめる社会。ちょっとステキだと思いませんか?