• 創成教育部門
  • 創成教育部門について
  • 学際実験・実習
  • 創成活動
  • 創生教育部門便り
「学際実験・実習」の巻

創成教育=創造性を育成する教育

 このコーナーでは、現在進行中の創成教育活動を順次紹介していきます。ところで創成教育って何?とおっしゃる方もあるでしょうね。「創成」の字義は「はじめてできあがること」ですが、「創成教育」といった場合には、創造性を育成することをめざした教育ということを意味します。
 でも、創造力は教育で身につくものなのでしょうか。確かに難しい問題ですね。でも、前触れもなく突然ひらめいたように感じられるアイディアも、多くの場合、すでに知っていた事がらや経験を、それまでは考えもしなかった形で結びつけたときに生まれることが多いものです。創成CIRCLEでは、創造力のもととなる知識や経験、つまり「創造性の道具箱」を充実させることとあわせて、多種多様な道具箱を結びつけるという体験を通じて、創造力は育成可能であると考えています。
  今回は、平成16年度から開始した工学部共通科目(2,3年生前期、選択1単位)「学際実験・実習」の紹介です。 学生の学生による学生のための授業
 学際実験・実習は、自主参加、自主企画、自主運営の自主3原則をモットーにした学生中心の体験型学習です。今年度から、学際実験・実習はTとUに分かれました。これは、学生のみなさんが最大2回まで、この授業を選択できるようにしたもので、初めて受講する時に学際実験・実習Tを、2回目には学際実験・実習Uを選択することになります。実際の活動は、学年・学科の区別なく、さまざまな個性を持った学生たちがグループで課題に取り組みます。つまり、この科目の重要な趣旨は、ある程度の専門性を身につけ、社会活動全体の中での各自の専門分野を意識した上で、異なった分野の学生と一緒に汗を流してグループ活動を体験するというものです。

ロボット製作風景
「受講者全員が無欠席で、普段の授業では見られないほど、いきいきしていた。」とのコメントが届いています。
じゃー、“普段の授業”はどうなんだというツッコミも入れたくなりますが…。まー、みんな熱心に取り組んでいるということです。ハイ。

さて、その授業の様子は?


ディスカッション中の学生のコメント:「このプロジェクトでは学外で環境問題に取り組む人たちと出会うことが多いのですが、そういった人たちは明確なビジョンを持っていて、大変刺激になります。」
通常の授業では得られないホントに貴重な経験をしていますよね。
 学際実験実習には、現在のところ、ロボット製作(知能ロボット・プロジェクト)、ビデオ制作(デジタルクリエータ・プロジェクト)、環境問題調査(エコロジー&アメニティー・プロジェクト)の3部門があります。各部門の中で、学生たちは学科・学年を越えて数人程度のグループに分かれて活動しています。それぞれの部門の具体的な活動の様子は、次回以降に紹介することにして、今回は全体の概要と特に指導する教職員側の雰囲気をお伝えます。
  学際実験・実習の活動は、水曜日の5,6限をコア・タイムとして、グループ単位で随時自主的な活動を展開します。各グループには担当教員をアドバイザーとして配置し、部門ごとに担当教員を主要メンバーとする w科横断型の運営組織である懇話会があります。部門ごとの懇話会メンバー全員が集まる会議は年に4回程度しかありませんが、さまざまな問題が生じた時点でメーリングリストにより意見交換をおこない、指導をおこなっている担当教員が孤立してしまわないように担当教員間で助け合うフットワークの良いネットワーク型の組織となっています。
  この授業を開講した当時の悩みは、どのような指導をおこなうかということでした。まったく指導しないのでは幼稚なレベルに留まることが予想されますし、あまりに指導しすぎると学生の自主性を育てることにはなりません。レベルの問題については、部門ごとに基本的な知識についての授業を実施することにしました。何事にもやはり基本は必要です。
  担当教員の指導法としては、おおよそ次のような考え方をしています。何らかの活動を成し遂げるには、熱意とエネルギーを注ぐに足る内容と実現する方法の3要素が揃う必要になります。担当教員は、このうち「方法」についての助言を中心におこなうことにしました。すなわち、学生の実施したい内容を実現するための方法について自らの経験に基づいてアドバイスし、また、自らの不案内な内容については問題解決のキーパーソンになり得る教員・専門家を紹介し問題解決ネットワークをコーディネートするというかたちをとっています。このような指導法の採用により担当教員の精神的負担も軽くなり、教員自身がより積極的に活動に参画できるようになりました。

懇話会はフットワークのよい元気ネットワーク!


30℃を越す猛暑の中、ゴミ調査中の学生のコメント: 「ゴミを通じて社会とのかかわりが実感でき、 ゴミ問題の重大さを体感しています。」 人に言われてやらされたのならとてもできないような作業も、自分で考えてやるのなら楽しくできるのですね。
 懇話会はさまざまな分野から自主的に集まった教職員で構成されていて、現在、工学部全教員の約4分の1にあたる38名が参画しています。ここで、懇話会の雰囲気を伝えるエピソードを紹介します。
 昨年まで、ロボット製作、ビデオ制作、環境問題調査の3部門は、それぞれ、「知能ロボット」、「レッスンプレビュービデオ」、「環境問題調査隊」と命名されていました。このうち「レッスンプレビュービデオ」は、学生の視点で授業紹介ビデオを制作することにより大学のPRに用いるとともに授業改善にも役立てようと考えたものでした。ところが、学生たちの意志を重視するということを宣言してしまった(?)この授業では、創設当時のモクロミとは裏腹に、学生たち自身が設定したテーマ(学生生活、健康問題、福井のお国自慢など)についてのビデオが作成され続けました。そのため、「レッスンプレビュービデオ」という名称を用いていると、学内外で内容説明をおこ ネう際に、「実は…」という但し書きが必要になっていました。そこで、ビデオ制作を担当する懇話会に名称変更を申し入れたところ、素早く代表者から返ってきた名称が「デジタルクリエータ・プロジェクト」というきわめて斬新かつ創造的ではあるのですが、他の部門とのバランスなど一切考えない名称でした。これを受けて、環境問題調査隊懇話会(当時)では急遽メール会議を開催したところ、まるでキャッチボールでもするようにさまざまな新名称が次々と提案され、その中から選ばれたのが「エコロジー&アメニティー・プロジェクト」という現在の名称です。
  とても大学の教員が考えたとは思えない斬新なアイディアがポンポン飛び交うのが、現在の懇話会ネットワークです。私は、これは大変重要なことだと思っています。そもそも、創造力は「こんなことを提案するのはカッコ悪い」などと思ってしまうような否定的な雰囲気から生まれてくるものではありません。創造性の育成には個々人の個性や意欲を尊重する雰囲気が必要です。懇話会は、まさにそういった「創造的雰囲気」を創り出すことに成功していると言えるでしょう。このような懇話会こそ、センターの本当の「おたから」だと思っています。

根付いてきた学際実験・実習


口頭による中間発表と、得られた成果を最終回にポスター発表します。ポスター発表は毎年秋に開催している「元気プロジェクトまつり」でもおこないますので、みなさんも是非おいでください。
また、制作したポスターは総合研究棟Tの1,2階で常設展示しています。
 学際実験・実習の平成16年度の受講者数は70名、2年目の17年度が97名、そして、今年度は説明会の会場に入りきれないほどの学生たちが大挙して集まり、149名が受講登録をおこないました。この授業の計画時から関わってきたメンバーの一人としては、まさに感涙にむせび泣く瞬間でした。
  学際実験・実習は、学生たちの動機付け教育としても成果を挙げています。例えば、不登校になっていた学生が「大学がこんなおもしろいところだと思わなかった」という感想を口にしたり、精神的に問題を抱えていた学生がこの授業への参加をきっかけに学習意欲を取り戻し、大学院進学を決心したという例もうまれています。
  学際実験・実習は、福井大学発の新しい創成教育方法として定着しつつあります。