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ロボカップ・サッカーロボットの研究開発秘話

知能システム工学専攻 前田陽一郎  

ロボカップを始めたきっかけ

 ミレニアムに沸いた2000年の6月に公立はこだて未来大学で開催されたJapanOpen2000への見学がすべての始まりでした。私が以前の大学にいた頃、個人的な興味でロボカップの国内大会を見に行った時のことです。そこで見たロボットの素早く知的な動きもさることながら、それにも増して感激したのは、参戦している各チームの学生達の「生き生きとした姿」でした。そこで見た学生の目や顔は、大学の教員として、それまで見てきたどの学生のものとも格段に違ったものでした。「こういう生き生きした姿で研究をやってくれる学生を育てたい!」これがこのときの私の決意でした。

ロボカップ・中型ロボットリーグについて


ロボカップ・ジャパンオープンでの試合風景
 ロボカップ(RoboCup)とは、世界で最も大規模なサッカーロボットの競技大会で、人工知能、ロボット工学などの技術革新を促すための国際プロジェクトとして発足しました。1997年から毎年、サッカー競技大会と国際会議が世界各地で開催されており、現在、約40カ国、4000名を越える研究者達がロボカップに関わっています。
  サッカーロボットの研究をやっているというと、よく「あ〜、あのNHKでやってるロボコンね!」などと言われたりしますが、それが一番悔しかったりします。ロボコンは「教育・若手育成」が目的で、人間によるラジコンが基本ですが、ロボカップは「研究・技術革新」が目的で、基本は完全自律であるところが決定的に異なります。ロボカップは「2050年までに人間のFIFAワールドカップ・チャンピオンチームに勝つための自律型ヒューマノイドロボットチームを作ること」という壮大な最終目標をもっているのも特徴です。
 私たちの研究室が参戦している「中型ロボットリーグ」では、ロボカップの実機を用いたリーグの中でも最大であり、直径50cm以内の6台のロボットがフットサルほどの大きさの18m×12mのフィールドで、公式ボールを使ってサッカーを行うリーグです。多くのチームが360度見渡せる全方位カメラを搭載しており、センサで自分とボールの位置をすばやく判断して動くため、大きなフィールドでの迫力ある攻防が見所です。中型ロボットリーグは、全方向移動機構、適応的行動選択、オンライン行動学習、集団協調行動、全方位ビジョンシステム、自己位置同定、ロボット間無線通信などなど、およそロボット研究の重要なすべての要素が含まれている優れた研究対象であると思います。

我々のロボカップチーム紹介


FC-Soromonsのサッカーロボット達
 私たちはこれまで、“FC-Soromons”というチーム名で、中型ロボットリーグに参戦してきました。ちなみにFC-Soromonsというチーム名は私が名づけたもので、Fuzzy Controlled - Soccer Robot with Multiple Omnidirectional Vision Systemの略称です。FCは"Football Club"にもかけており、Soromonsは賢者として有名なソロモン王(こちらはSolomonで、綴りが1文字だけ異なる)にあやかりたいという気持ちも込められています。
  当研究室の知能ロボット技術を結集して、2005年からロボカップチームFC-Soromonsが発足しました。我々のチームのロボットは、全方向移動機構、ファジィ制御システムに加え、3台の全方位カメラをもつ距離計測が可能なマルチ全方位ビジョンシステムMOVISを搭載しているのが特長です。
  FC-Soromonsは、当初メンバーが7名という研究室内で構成された小さなチームでした。2004年秋に第一号を完成し、その後、“通信”“センサ”“行動制御”の3つの部門に分かれて学生が休日返上で作業を進め、なんとか合計5台のロボットを作り上げました。その甲斐あって、2005年7月に大阪で開催された世界大会への出場もみごと果たしました。世界中から31チームがエントリーし、そのうち24チームに選ばれて参戦できました。この年は、福井県内の新聞7社とTV局2社の取材を受け福井県内で初めてのロボカップ中型ロボットリーグへの参戦を報じ、大学としての大きな広報効果もありました。しかし、参戦1年目の我々のチームは奮戦するも予選で敗退、世界の強豪チームとの力の差を思い知ることになりました。


RoboCup2005の参戦ロボットとメンバー
 その悔しさをバネに、2006年5月(北九州市)と2007年5月(大阪市)に開催されたJapanOpenには、世界大会で得た経験を生かして大幅なロボットの改良を行って参戦することができました。今年のJapanOpenでは、大阪大学の古豪チーム“Trackies”との合同チーム“Soromons&Trackies”として参戦し、試合では7チーム中4位という成績を残すことができました。試合前には大阪大学までロボットを運搬し合同で調整するというチーム間の調整も大変でしたが、チーム同士の意志疎通や情報の共有など非常に良い経験ができたと思います。

創成教育として見たロボカップ研究


ロボカップ・ジャパンオープンでのロボットの調整風景
 今回のチームに所属する学生達は、本格的なロボットの全面改良に貢献し、非常に頑張ってくれました。夏休みも惜しんで機械工場で金属加工に明け暮れ、アルバイトから大学に帰ってきて深夜に実験の続きをするなど、チーム一丸となって目標達成に向けて努力している姿は私自身も感動するものがありました。また、ロボカップに参戦している当研究室の学生達は、個人の研究を進めながらロボカップの作業を行っているため、部品加工やプログラミングなどに費やす時間の確保が難しく大変でしたが、メンバーそれぞれが自分の仕事を把握し責任をもって取り組むことにより、ロボットの改良作業を進めてきたことは心から褒めてあげたいと思います。
  このようにチームとして参加するようなプロジェクト研究の学生に与える教育効果は絶大なものがあります。日本でも有数のチームが競う大規模なロボット競技会への出場により、学生達のやる気や研究意欲の飛躍的向上、最先端技術に接する貴重な実体験、大学外での学生相互の交流、など多大な教育効果が得られることもわかりました。大会への参戦により、プロジェクトに参加した学生のモチベーションは格段に上がったことも明らかでした。冒頭にも書きましたが、私が目指した学生の「生き生きとした姿」を十分確認することができたのです。これこそ創成教育に必要なものではないでしょうか?
 最後に、CIRCLEの創成教育部門の先生がたには、日頃から我々のロボカップ研究には絶大なる理解を示していただいており、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。しかしながら、大学も予算削減の時代で、1研究室での大きなロボット競技会への参戦は非常に厳しく、実用的な研究に比べスポンサーを集めるのも極めて困難なものがあります。ソフトウェアは「頭」を使えばいくらでもいいものができますが、ハードウェアは「お金」をかけないといいものは決してできません。このような学生の積極的な教育研究活動に対して、創成教育の中心的役割を担っておられるCIRCLEの先生方にこれからも賛同していただけるような創成教育および研究を続けていきたいと考えております。

チーム公式サイト http://www.ir.his.fukui-u.ac.jp/soromons/

学生からの声(チームリーダ:市川 毅)


JapanOpen2007の参戦ロボットとメンバー(阪大との合同チーム)
 JapanOpen2007への参戦にあたり、今回はチームリーダーとしての参加であったため、私の中ではこれまでに無い経験をすることができました。リーダーになった当初は、まだロボットについて深く理解できておらず、また、しっかりとスケジュール通りに作業を進め、チームの運営などをやっていけるかどうか非常に心配でした。しかし、メンバー全員がしっかりと問題を把握し、責任をもって作業を進めてくれたため、何とか大会までこぎつけることができました。ただリーダーとしてもう少し積極的にスケジュール管理などできれば良かったというのが正直な感想です。
  また、今回はロボットの全面改良という大きな作業があり、設計から製作まで普段の大学の授業では触れることのできないような経験を積むことができました。このようにロボットの製作から制御まで一貫して取り組むことはなかなかできないことであり、思うように動かず悩んだ時もありましたが、最終的に動いた時の喜びは言い表せないものがありました。
  今回のジャパンオープンへの参戦は、普段の学生生活では味わうことのできない経験をすることができ、また人間的にも技術的にも成長することができる非常に有意義なものでした。